仮想通貨による所得が総合課税から申告分離課税になるとどうなる?税率の変化や改正への期待を解説

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暗号資産(以下、仮想通貨)とFXは同じ「雑所得」の対象ではありますが、仮想通貨がFXや株式取引と同じように税制上扱われるよう、改正に関する働きかけが各地で行われています。

では、なぜ仮想通貨の税制改正が期待されているのでしょうか。
本記事では、現在の仮想通貨の税制の基礎知識や、改正に対する声が高まっている背景、改正によるメリットについて解説します。

目次

仮想通貨による所得は「総合課税」

仮想通貨取引の所得は現在、税法で「雑所得」に分類されています。
また雑所得は「総合課税」の区分のひとつです。

総合課税とは、年間の所得(給与所得、事業所得、不動産所得、株式等の譲渡所得など)をすべて合算し、その合計金額に対して税率を適用する仕組みのことをいいます。
総合課税による納税額は、以下の表に基づいて計算されます。

課税される所得金額税率控除額
1,000円 から 1,949,000円まで5%0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円 以上45%4,796,000円
参照:国税庁 No.2260 所得税の税率

※合計金額(所得金額) = 課税所得金額 × 税率 – 控除額

表を見て分かるように、総合課税は所得が高くなるにつれ税率も上がるのが特徴です。
これを「累進課税」といいます。

仮想通貨による利益もこの総合課税の対象となるため、総合課税に該当する全所得と合算して税率が決まります。

今後導入が期待される「申告分離課税」とは

所得税には、前述した「総合課税」のほかに、「申告分離課税」という課税方法があります。
申告分離課税とは、ある種類の所得に対して個別に税率を適用する方法で、仮想通貨に関してもこちらの税制を適用する声が挙がっています。

例えば、申告分離課税である退職金は、受け取った金額に対してそのまま税率をかけて計算し、税金の納付を行います。

現在、仮想通貨の所得は総合課税として扱われています。
一方で株式の譲渡、株式投資、投資信託、FXの利益は申告分離課税が適用されているため、同じ投資という面で考えると仮想通貨の扱いは例外的ではないかと思われていることも少なくはないでしょう。

では、申告分離課税のメリットとデメリットを比較してみましょう。

申告分離課税のメリット

申告分離課税の最大のメリットは、税率の上昇を防げる点です。
申告分離課税の税率は固定されているため、所得額がどんなに上昇しても「20.315%」から上がることはありません。

一方、総合課税は所得額が増えることによって税率も上がってしまい、所得が695万円以上(税率23%)になったタイミングで申告分離課税の税率を超えてしまいます。

上記のような性質から、仮想通貨が申告分離課税の対象となれば、ほかの所得と合算する必要がないため、納税負担を減らすことができます。

申告分離課税のデメリット、注意点

一方、申告分離課税にはデメリットもあります。

1つ目は、仮想通貨での利益(所得)が多いと税金負担が軽くなる一方、利益が少ないと税金負担が相対的に重くなる点です。

所得が約330万円以下の場合は申告分離課税(20.315%)よりも総合課税(10%)の方が税率が低いため、副業として少額程度の仮想通貨取引を行っている方は総合課税よりも多くの税金を払わなくてはなりません。

2つ目は、損益通算がしにくいことです。

損益通算とは利益と損失を相殺し、所得額を減らせる制度のことを言います。
総合課税では4つの所得(不動産所得、事業所得、譲渡所得、山林所得)で損益通算ができる一方で、申告分離課税は別区分の所得から損益通算することはできず、同じ申告分離課税が適用されているFXや株の所得などとの損益通算しかできません。

WEB3.0の時代、仮想通貨による所得が申告分離課税になる可能性は?

2019年頃から現在まで、仮想通貨の税制を申告分離課税に変更する圧力が政府にかかっています。
一般社団法人新経済連盟(新経連)や日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)は政府宛に税制改正提言を提出しています。

参考①:日本暗号資産ビジネス協会 『2024年度税制改正に関する要望書』を政府宛てに提出いたしました
参考②:新経済連盟 暗号資産に関する2023年度税制改正要望を政府宛てに提出

では、なぜここまで税制の改正が望まれているのでしょうか。

なぜ申告分離課税に?論点は「WEB3.0企業」の海外流出

論点のひとつとなるのが、WEB3.0(ウェブスリー)企業の存在です。
WEB3.0は分散型の技術を基盤とした次世代インターネットのことで、仮想通貨で使われるブロックチェーンも分散型技術のひとつとして数えられています。

WEB3.0企業は、仮想通貨やポイントなどの「価値が変動するトークン」を発行しているケースが多く、そのトークンの価値は時間とともに上昇することがあります。
しかし、現在の法人税制では、トークンの価値が上昇した分にも税金がかかってしまうため、WEB3.0の事業を行う国内スタートアップが、税率の低い海外に転出するケースが後を絶ちません。

このように、仮想通貨を積極的に取引する法人や個人ほど税負担が大きい現在の税制は、日本の仮想通貨やWEB3.0の進出に歯止めをかけているのが現状です。
各団体は現状の課題を政府に提言し、世界のトークン市場に対して日本が遅れを取らないよう働きかけています。

政府はこの請願を受け取っているものの、現時点では申告分離課税の変更について公式の発表をしていません(2024年4月現在)。

仮想通貨の所得が申告分離課税になったら?影響を受けそうなこと

仮想通貨に申告分離課税が適用されれば、税制上の取り扱いでさまざまな変化が見られるかもしれません。

どのような影響が出る可能性があるのか、いくつか想定できるものをお伝えしていきます。

繰越控除が可能になるかもしれない

日本暗号資産ビジネス協会は政府への要望内容として「仮想通貨の繰越控除を可能にすること」をあげています。
繰越控除とは控除できなかった損失を3年間で繰り越し、翌年以降の利益と通算できる仕組みです。

株式や投資信託の赤字も現段階で繰越控除が可能であるため、同協会は仮想通貨も同様の制度を適用することを求めています。

損益通算が可能になる

仮想通貨が申告分離課税になることにより、損益通算が可能になるかもしれません。

現在、仮想通貨は雑所得(総合課税)に分類されるため、利益がマイナスでも、給与所得など他の所得からその損失を差し引くことができません。
しかし、申告分離課税になれば、仮想通貨の所得が株式やFXなどと同じ扱いになる可能性があります。

例えば、「仮想通貨で損失が出ているが、FXでは利益が出ている」といった条件下では、FXの利益から仮想通貨の損失を差し引き、所得額を減らせるようになります。

まとめ

現在、仮想通貨の所得は総合課税の対象となっていますが、将来的に申告分離課税への移行が期待されています。
この申告分離課税が実現すると、仮想通貨の取引をする方には税制上の大きなメリットがあると考えられます。

また、WEB3.0企業が増加し、トークンなどの新しい技術が日本でさらに一般化する可能性も出てくるでしょう。

仮想通貨が気になるけどFXや株しか取引していないといった方も、税制改正により損益通算が可能になれば、仮想通貨に挑戦するハードルが一気に下がります。
FXも総合課税から申告分離課税に変更された過去があるため、今後の税制改正には注目していきましょう。

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