暗号資産(以下、仮想通貨)によって定期的に利益がある場合、法人化を検討する必要が出てきます。
法人化の大きなメリットは、節税につながる可能性があることですが、デメリットも少なくはありませんので、「法人化のボーダーライン」を知ってから判断することが重要です。
そこで、仮想通貨取引を行う個人や個人事業主が法人化を考える際のヒントをお伝えしていきたいと思います。
ぜひ法人化を検討する際の参考にしてみてください。
法人化すると仮想通貨取引の税金対策になる理由
そもそも、なぜ法人化によって節税や税金対策ができるのでしょうか。
その仕組みについて、解説していきます。
個人や個人事業主にかかる税金は「所得税」
多くのトレーダーは、まったくの個人や個人事業主として仮想通貨取引を行っています。
このとき、仮想通貨から得られる所得は「雑所得」となり、そのルールに基づく所得税がかかります。
雑所得による所得税の税率は以下のとおりです。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,330,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
仮に仮想通貨で大きな利益を出し、4,000万円以上の所得を得た場合、適用される税率は45%です。
加えて、住民税が約10%かかるため、実質でかかる最高税率は約55%となります。
法人にかかる税金は「法人税」
次に、仮想通貨取引を主な事業として法人化した場合、個人では取引で得た利益は雑所得として「所得税」が課されていたものが、法人の場合は事業による売上・利益となり、その法人として得た利益に対する「法人税」として扱われるようになります。
法人税の税率は以下のとおりです。
区分 | 適用関係(開始事業年度) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
H28.4.1以後 | H30.4.1以後 | H31.4.1以後 | R4.4.1以後 | ||||
普通法人 | 資本金1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% | 15% | 15% | 15% |
適用除外事業者 | 19% | 19% | |||||
年800万円超の部分 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | 23.20% | |||
上記以外の普通法人 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | 23.20% |
例えば、資本金1億円以下で起業し、仮想通貨取引によって年800万円超の利益を得た場合、800万円を超える部分には23.20%、800万円以下の部分には15%の税率がかかります。
加えて法人の場合、10.3%の法人住民税と、3.4〜6.7%の法人事業税も原則かかるため、最高で32%の税負担が課せられる可能性があります。
所得税よりも法人税が安くなるボーダーラインはどこか?
所得税と法人税の税率を比較したとき、全体的に税率が低いのは法人税のほうだといえます。
例えば、現在23%の所得税がかかっている人なら、法人化することで税金対策になる可能性が高いです。
ただし、個人や法人で経費計上できる項目や、利益の圧縮方法などにも大きな違いがあります。
このあとに説明するメリット・デメリットを踏まえて、総合的に判断するのがおすすめです。
仮想通貨取引を事業として個人事業主になるメリット
個人が仮想通貨取引を本格的に行うなら、法人化よりも先に個人事業主になることを検討しても良いでしょう。
そこでまずは、個人事業主になるメリットとデメリットを説明していきます。
なお、仮想通貨取引の頻度が副業と見なされる程度では、税務署から開業を認められない可能性もあるため、「継続して取引をしていること」が前提となる点に留意してください。
利益から経費を差し引ける
個人事業主として開業する大きなメリットは、その利益から経費を差し引ける点です。
取引にかかるコストだけでなく、自宅兼事務所の家賃や電気代なども経費に入れられます。
個人のままでも経費計上できなくはありませんが、税務署に否認される可能性もあるため、開業しておいたほうが安心感があるでしょう。
控除枠の大きい青色申告が利用できる
個人事業主になり、確定申告の際に「青色申告」を選択すると、最大65万円の青色申告特別控除を利用することができます。
仮想通貨取引によって大きな利益を得た場合でも、税金を圧縮することが可能です。
仮想通貨取引を事業として個人事業主になるデメリット
個人事業主として開業して確定申告を行った場合、住民税額が本業の勤務先で把握している金額から変更されます。
そのため、勤務先にバレる危険性があります。
住民税を自分で支払う「普通徴収」の方法を取れば、住民税から推測されることはなくなりますが、それでも急に天引きから切り替える旨を伝えたことで、副業を疑われることも考えられなくはありません。
副業を許可していない企業に勤めている場合は、開業には慎重になったほうが良いでしょう。
仮想通貨取引を事業として法人化するメリット
次に、仮想通貨取引を本業として法人化するメリット・デメリットについて、まずはメリットから説明します。
経費計上・損金算入できる項目が増える
法人化の大きなメリットとして、経費として扱える項目を増やせることが挙げられます。
例えば自宅をオフィスや社宅扱いにすれば、その家賃の一部を経費として計上できます。
保険料や共済掛金、旅費なども、全額もしくは一部を経費とすることが可能です。
また、先に挙げた法人事業税は、損金算入できる珍しい税金です。
損金算入も経費計上と同様に、利益を減らして税金を圧縮する手段のひとつになるため、積極的に活用するとよいでしょう。
損失を最長10年間繰り越せる
法人の場合、最長10年間、損失の繰越が可能です。
例えば、仮想通貨が暴落してその年に大きな赤字を出した場合、その翌年以降の黒字を相殺し、長期的に節税することができます。
これは個人にはない制度で、青色申告者でも最長3年間しか繰越ができません。
長期的に大規模な取引を行うのであれば、法人化したほうが有利になるでしょう。
損益通算できる範囲が広がる
法人化すると、仮想通貨取引による利益や損失を、法人が行っているその他事業の利益や損失と相殺することができます。これを「損益通算」といいます。
個人の場合、仮想通貨取引の利益は雑所得にあたり、この雑所得は他の給与所得や不動産所得などとの損益通算が認められていませんでした。
しかし、法人化すれば、本業の給与所得などとの相殺が可能になり、節税効果が期待できます。
仮想通貨取引を事業として法人化するデメリット
法人化すると個人事業主に比べてメリットも大きいですが、その分デメリットも数多く存在します。
基本的には法人化することで生じる事務作業周りと関連するコストの発生が主なデメリットと考えられます。
法人化するのが手間
法人化の大きなデメリットは、法人化に関する手続きに大きな手間がかかることです。
法人化すると決めた後には、法人登記や定款認証、法人設立届の提出、社会保険への加入など、さまざまな手続きが待っています。
もちろん税理士などの手を借りることはできますが、そのための費用負担が発生する点にご注意ください。
会計・税務が複雑になる
法人化すると、毎年の決算が必須となり、また、日頃の会計・税務処理も個人事業主と比較して煩雑になります。
税理士に依頼したり、人を雇ってもしくは自分で計画的に処理したりする必要が出てきますが、その分費用や時間がかかってしまうのも法人化によるデメリットのひとつです。
法人口座開設の審査がやや厳しい
法人を設立したあとには、法人用の銀行口座や仮想通貨の取引口座を開設します。
この口座開設の審査は、個人よりもややハードルが高いといわれています。
また、相当の手続き時間もとられるため、一時的に取引をストップさせる必要も出てきてしまうかもしれません。
仮想通貨取引で法人化するための方法・手順
これまでの内容を踏まえて法人化するなら、以下のような流れで手続きを行いましょう。
税理士にサポートしてもらったり、法人設立用のWEBツールを活用したりすると、手続きを比較的スムーズに進められます。
まずは、法人が行う事業内容や資本金の金額、発行する株式数などの基本事項を決めます。
同じ業界の法人サイトなどを参考に、具体的な内容を決めていきましょう。
そして、その内容を落とし込んだ定款も作成します。
定款を作成したら、その内容について公証人の認証を受けます。
本店所在地を管轄する公証役場の予約を取り、認証を受けに訪問しましょう。
当日の手続き自体は、およそ15分程度で終了します。
定款認証が終わったら、その同日以降に資本金の払い込みを行います。
この時点ではまだ法人名義の銀行口座が開設できないため、発起人の個人口座への振込・振替を行いましょう。
ここまでの手続きが終わったら、登記申請書類を作成して、定款や銀行口座のコピーなどと共に法務局へ提出します。
郵送することもできますが、不備があった場合に郵送でやりとりする手間が発生します。
確実に手続きを進めたいなら、法務局に直接提出するのがおすすめです。
法人登記を完了したあとには、以下のような手続きを行い、法人としての業務開始を迎えます。
- 法人銀行口座、法人の仮想通貨取引口座の開設
- 登記事項証明書、印鑑証明書の取得
- 法人設立届などの提出
- 社会保険の加入手続き
- 労働保険の加入手続き
- 個人事業の廃業手続き
書類の提出に関しては、提出先がそれぞれ異なるため、税理士などの手を借りながら進めていくことをおすすめします。
まとめ
仮想通貨取引によって大きな利益が出ているなら、個人事業主や法人になることを検討するとよいでしょう。
法人化によって節税できる可能性も大きいです。
そのメリットやデメリットから総合的に判断してみてください。