仮想通貨で得た所得は、雑所得の対象となり、最大55%もの税金がかかります。
そのため「高い税金をどうにかしたい!」と思っている人もいるでしょう。
ある程度の所得がある場合は開業し、個人事業主として仮想通貨取引をおこなうのも、ひとつの方法かもしれません。
事業にすることで、税制優遇が受けられるからです。
この記事では、仮想通貨取引を個人事業主としておこなう際の条件や、節税ポイントを紹介します。
仮想通貨取引で個人事業主として開業できる
仮想通貨取引を行うトレーダーは、条件を満たしていると開業できます。
個人事業主あるいは法人設立での開業、どちらも可能です。
また、自分が仮想通貨取引をおこなうのではなく、「仮想通貨取引所を運営する事業者」として開業する方法もあります。
個人事業主で開業する際に必要な免許や資格は、とくにありません。
ただし、自身で仮想通貨取引をするのではなく、「仮想通貨取引ができる場所を提供する」事業を展開する場合には、仮想通貨交換業者の登録が必要です。
仮想通貨取引で開業する際の条件
仮想通貨取引のみで個人事業主として開業するには主に以下の条件を満たす必要があります。
- 仮想通貨取引で300万円超の収入があること
- 開業届を提出していること
- 記帳・帳簿書類を保存していること
- 必要に応じて青色申告承認申請書を提出すること
特に「300万円超の収入があるかどうか」という点は事業所得として認められるか否か、重要なポイントとなりますので、損益を正しく把握しておく必要があります。
仮想通貨取引で300万円超の収入があること
国税庁の「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(情報)」によると、300万円超の収入があれば、事業所得として認められるとされています。
ただ、事業所得に認められる判断基準は、年収のほか「独立しているか」「継続・反復しておこなわれているか」といった観点も含めて、総合的に判断されます。
そのため、年収さえ条件に該当すればよいとも限りません。
たとえば、会社員の人が副業で仮想通貨取引をしており、個人事業主として開業するケースもあるでしょう。
その際、仮想通貨取引で生じた所得が「継続的な事業として認められない副業」と判断されると、事業所得の対象外となってしまうこともあります。
副業での仮想通貨取引を事業として認められるかどうかが心配なときには、税務署や税理士に相談してみましょう。
開業届を提出していること
開業届とは、新たに事業を始めた人が税務署に申告する書類です。
提出しなくても罰則はありませんが、提出することをおすすめします。
なお、「事業を開始してから1か月以内の提出」が推奨されています。
開業届の提出をおすすめする理由は、以下のとおりです。
- 青色申告で確定申告をする際は、開業届の提出が必須だから
- 銀行口座の開設・オフィスの賃貸契約・融資の審査などで、開業届の控えの提示を求められることがあるから
開業届の提出は、本業・副業を問いません。記載内容も難しくないため、作成して税務署に提出しましょう。
記帳・帳簿書類を保存していること
仮想通貨取引を「事業所得」と認めてもらうためには、年収300万円を超える、かつ帳簿書類を保存している必要があります。
その年の暗号資産取引に係る収入金額が300万円を超える場合には、次の所得に区分されます。
- 暗号資産取引に係る帳簿書類の保存がある場合は、原則として事業所得
- 暗号資産取引に係る帳簿書類の保存がない場合は、原則として雑所得
適正な帳簿書類が作成・保存してあるかどうかによって、事業所得に認められない可能性があります。
このことから、帳簿書類を保存しているか否かが、重要な判断基準になっているといえるでしょう。
開業する際には、仮想通貨取引に係る書類をしっかり作成・保存しておきましょう。
必要に応じて青色申告承認申請書を提出すること
青色申告で確定申告をおこないたい場合は、「青色申告承認申請書」を開業届とともに提出しましょう。
青色申告承認申請書を期日までに提出しなければ、青色申告ができません。
青色申告には、最大65万円の特別控除が受けられたり、赤字を3年間繰り越せたりできるメリットがあるため、税金対策を考えるなら申告しておきたいところです。
なお、青色申告承認申請書は、一度承認されると次年度以降も青色申告となるため、毎年提出する必要はありません。
個人事業主の税率は法人よりも高い?
結論からいうと、一定水準を超えると法人税の方が税率が安くなるといえます。
個人事業主として開業したときに適用される所得税の税率は5%から45%となり、開業する前と変わりはありません。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,330,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
ただ、事業所得で赤字が出た際に、他の所得から事業所得の赤字を差し引いて税額の計算ができる「損益通算」が可能になります。
ほかにも経費で落とせるものが増えたりなどのメリットもあるため、完全な個人であるよりも個人事業主になった方が税金対策しやすくなります。
一方、法人税に適用される税率は、15%〜23.20%になります。
区分 | 適用関係(開始事業年度) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
H28.4.1以後 | H30.4.1以後 | H31.4.1以後 | R4.4.1以後 | ||||
普通法人 | 資本金1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% | 15% | 15% | 15% |
適用除外事業者 | 19% | 19% | |||||
年800万円超の部分 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | 23.20% | |||
上記以外の普通法人 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | 23.20% |
参考:国税庁「No.5759 法人税の税率」
法人の種類や規模によって税率は異なりますが、それでも個人事業主の税率の最大値と比較すると、法人税のほうが低いといえます。
つまり、仮想通貨取引で得た利益や規模によっては、法人税のほうが節税できるかもしれません。
ただ、法人を設立する際は、登記や社会保険への加入手続きが必要になったり、経理が複雑になったりと、手間やコストがかかる側面もあります。
法人化については、こちらの記事でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
仮想通貨取引で開業した場合の節税ポイント
仮想通貨取引で開業した場合、個人事業主としてはどのような節税手段があるのでしょうか。
意識したい節税のポイントについて紹介します。
家賃按分など経費とできるものを計上する
事業に関する経費はしっかりと計上しましょう。
所得税は収入から経費を差し引いた「所得」に対してかかってくるため、所得を抑えることが節税のポイントとなります。
仮想通貨取引における経費には、売買の際に要した仮想通貨の取引手数料や送金手数料、取引等行うための端末にかかる電気代や通信費などが含まれます。
ただし、電気代や通信費の経費計上には注意が必要です。
たとえば、個人事業主として自宅で仮想通貨取引をする場合、電気代や通信費は「按分計算」が必要なケースが多くなります。
電気や通信は、仮想通貨取引以外の用途としても使われていることがほとんどだからです。
適切な按分を行いつつも、経費を漏らさず計上しましょう。
ふるさと納税を利用する
税額控除や所得控除などを利用・申告するのも、税金対策のひとつの方法です。
代表的な所得控除に、ふるさと納税があります。
ふるさと納税は、寄付金のうち2,000円を超える部分について、所得税の還付・住民税の控除が受けられるものです。
たとえば、20,000円のふるさと納税をした場合、18,000円が還付や控除の対象となり、翌年の所得税や住民税から差し引かれます。
さらに返礼品も受け取れるため、節税を考えるなら利用しておいて損はない制度といえるでしょう。
そのほか、小規模企業共済やiDeCo、住宅ローン控除など、大きな所得控除が期待できる制度もあるので、必要に応じて利用してみましょう。
仮想通貨の損益を相殺する
仮想通貨取引が「事業所得」として認められ、青色申告ができる場合には、ほかの所得と損益通算をする方法もあります。
損益通算とは、所得の黒字と赤字を相殺する計算です。
仮に開業後、仮想通貨取引(事業所得)で赤字が出たとき、給与所得や雑所得などと相殺することで所得を抑えられます。
仮想通貨取引が事業所得と認められた際には、覚えておくとよいかもしれません。
まとめ
仮想通貨取引での開業は、個人事業主・法人化どちらも可能ですが、さまざまな条件を満たす必要があります。
個人事業主か法人を設立するかは、税金面や手続きなどに違いがあるため、確認しながら慎重に判断しましょう。
そして個人事業主として開業した際には、可能な範囲で節税につながる行動をとることをおすすめします。