よく暗号資産(以下、仮想通貨)の話題で見かける「ガチホ」ですが、考え方・運用方法によっては正しく機能する投資戦略のひとつであるとも言えます。
今回はガチホの概要やガチホのメリット・デメリット、塩漬けとの違いや税金面で気をつけることなど、ガチホについて網羅的に解説します。
仮想通貨の「ガチホ戦略」とは
ガチホとは「ガチ(本気)でホールド(保有)する」の略で、利益を見込んで長期的にポジションを保有することをいいます。
英語圏では「HODL(ホドル)」とも呼ばれます。
特に「仮想通貨を購入して、しばらく売る予定がない」といった状況で「ガチホ」という表現をされるのが一般的です。
いつまで持ち続けるのが「ガチホ」なのか
「ガチホ」はいわばネットスラングであるため、保有期間に明確な定義はありません。
発言者の投資スタイルによっても指す期間が違い、スキャルピングを行う「スキャルパー」の場合、数日単位の保有でもガチホと呼ぶことがあります。
しかし、一般的には数年〜数十年の長期保有を指すことが多いようです。
「ガチホ」と「塩漬け」は似ているようで違う
「ガチホ」と「塩漬け」は長期的にポジションを保有し続けるという点で似ていますが、投資家のメンタルの面で大きく違います。
ガチホ | 市況やファンダメンタル等要因から「上がる可能性が高い」と考え、戦略的に長期保有すること |
塩漬け | 損失が出ているにも関わらず、損切りできないまま保有し続けている状態のこと |
ガチホは戦略的・意識的なものですが、塩漬けには戦略がありません。
下落に流されていった結果損失が膨らんでしまい、見て見ぬふりをしている状態が塩漬けに当たります。
一方でガチホは事前にシナリオを立て、能動的に長期保有を決めていくという特徴があります。
仮想通貨のガチホ戦略によるシミュレーション
ではここで、ガチホ戦略が功を奏した例を見てみましょう。
今回はイーサリアムを例として用い、下記のチャートは2020年頃からのものになります。
2020年1月時点の価格は約1万4,400円でしたが、2021年11月には約52万9,300円と、2年もかからない期間で約37倍もの値段がつきました。
このタイミングで決済するだけでも十分な利益が得られたと考えられます。
上昇と下落をリアルタイムで経験している人は「もっと上がるかもしれない」「いや、今利確をしないと後悔するかもしれない」など、感情を大きく揺さぶられがちです。
そして、実際のチャートではトップをつけたあとには下落しており、2020年1月からガチホを続けていた人であれば、37倍もの利確を逃してしまったと感じたかもしれません。
しかし、イーサリアムは2024年の5月末に2021年の価格を上回り、2024年5月末には約58万7,000円もの値段をつけることとなりました。
もし2020年1月からイーサリアムを1枚購入してガチホし続けていた場合は57万円の利益となり、それまで最高値と考えられていた2021年に利確しなかった人よりも利益を伸ばした結果となりました。
株式市場でも「実際の価値はもっと高い」と考えられる商品に投資をするバリュー投資や、高い成長を見込んで買うグロース投資などでは、戦略的にガチホすることがあります。
仮想通貨業界においては価格の動きやプロジェクトの活発さ・普及状況が激しく変わるため、想定は難しいものの、イーサリアムのような仮想通貨をガチホできていれば、大きく利益を得られる可能性があると考えられます。
仮想通貨を「ガチホ」するメリット
仮想通貨は短期売買のイメージが先行しがちですが、投資初心者ほどガチホの方が安定した運用になることもあります。
では、仮想通貨をガチホするメリットとして、どのようなものがあるのでしょうか。
専門知識がなくても取り組める
ガチホの代表的なメリットは、専門知識が不要なことです。
本来仮想通貨取引を行う際は、チャートの読み方や銘柄を取引するタイミングなど、一通りの投資知識を得ておく必要があります。
しかしガチホの場合は、仮想通貨のなかからガチホするものを選んだら、その後はその銘柄をずっと保有しておけばよいだけです。
取引手数料の節約になる
取引所や販売所では、スプレッドなどの取引手数料を仮想通貨を売買するたびに徴収しています。
対してガチホの場合は狙う利幅が大きく売買の回数も少ないため、最小限の手数料で取引することができます。
取引で何度も往復しない分、手数料の節約になる取引方法と言えるでしょう。
分散投資をしやすい
ガチホ戦略は、ひとつの仮想通貨に資産をすべて投入するというよりも、今後が期待できるからとりあえず持っておこうという考えで分散的に保有することに向いています。
投資先を分散させることでリスクを減らせるため、大きな損失を被る可能性を減らすことができます。
分散させる対象には「時間」「商品」「手法」などさまざまな軸がありますが、仮想通貨のガチホでは「時間軸」の分散投資をしやすいのが特徴です。
例えば事前に「一定価格下落するたびに購入する」などと決めておくことで、本来痛手である値下がりを「利幅を増やすチャンス」と捉え直すことができます。
チャートに張り付く必要がない
短期売買、特にスキャルピングでは一瞬のシグナルを見逃すだけで思うような取引ができなくなることがあります。
ガチホの場合は細かい値動きをあえて無視するため、チャートの変動に一喜一憂する必要がありません。
チャートを常に見張る必要がないため日常生活に支障が出にくく、ゆったりとした気持ちで運用することができます。
仮想通貨を「ガチホ」するデメリット・注意点
それでは、仮想通貨をガチホすることによるデメリットにはどんなものがあるのでしょうか。
注意点とともに見ていきましょう。
新技術ゆえに不安定
仮想通貨は新しい技術であるため成長も期待できますが、一方で不安定な面もあります。
とくに懸念されるのは取引所の倒産リスクや、ハッキングなどの技術的リスクです。
実際に起きた事件には2014年、大手の暗号資産交換業者であったマウントゴックスのサーバーが何者かにハッキングされ、470億円相当の被害が出てしまった「マウントゴックス事件」があります。
また同様に大手業者だったFTXは2022年に経営破綻を引き起こし、多くの投資家が資産を失う結果となりました。
このように仮想通貨は産業として成長が見込まれる一方で、まだ多くのことが手探りな状態とも言えます。
セキュリティ面の脆弱性なども懸念されるため、これらのリスクも視野に入れておくことが大切です。
銘柄選びが難しい
ガチホは「将来的に上がるだろう」と予想して行われるものですが、必ずしも思ったとおりの値上がりをするとは限りません。
想定よりも人気が集まらなかったり、予想されていたその通貨に関連するプロジェクトが中止になったりすることもあります。
また、仮想通貨は日頃から新しい通貨が誕生しているため、ガチホしている通貨の需要が新興通貨へ流れてしまうことも考えられるでしょう。
そのため、銘柄の将来性に期待してガチホしながらも、仮想通貨の値動きや関連するニュースなどは定期的にチェックしておく必要があります。
利益確定や損切りのタイミングに悩む
ガチホは長期戦略ではありますが、その出口戦略を決めないままスタートしてしまうと、大きく値上がり・値下がりしたタイミングで売却するべきなのか悩んでしまいます。
その結果、利益確定のチャンスを逃すことや、「ガチホのつもりが塩漬け化してしまった」といったことも考えられます。
ガチホを始める際には、その後のシナリオを想定しながら、利益確定や損切りタイミングなどの出口戦略も計画しておくことが大切です。
機会損失になることがある
手持ち金額の大部分を仮想通貨の長期運用に投じてしまうと、ほかの戦略や商品に投資する余力がなくなってしまう危険があります。
とくに仮想通貨はボラティリティが高いため、短期売買の良さも享受しやすい投資商品です。
資金に余力が無いと好機に乗れず機会損失になることがあるため、必ずしもガチホに一点突破する必要はありません。
ガチホで利益が出た際の税金に関する注意点
ガチホ戦略で狙う利幅は広いものであるため、そのため決済時の利益も大きくなります。
そして、利確した際には所得の計算が必要となりますが、長期の投資計画であるため、損益の管理も同様に長期に行うことになります。
仮想通貨の税金は、利益から取得価額や経費などを引いた所得に、税率をかけて計算します。
仮想通貨の税制はほかの投資商品と比べても複雑なため、税金についてもしっかりと知識を深めておきましょう。
今回は、仮想通貨の税金面で気をつけたい点を3つ紹介します。
損益計算のため、取引履歴を毎年保存しておく
前述のように、仮想通貨の所得は「利益-取得価額」で計算されます。
ここで言う取得価額とは仮想通貨を購入したときに払った金額のことです。
取得価額は確定申告において必須の情報ですが、ガチホのような長期運用では取得価額が「遠い過去のもの」となってしまうことがあります。
取引所によっては過去履歴にアクセスしにくくなることもあるため、取引履歴はなるべく早く、こまめにダウンロードしておくと安心です。
利益を出した年に確定申告を行う
確定申告は「利益を確定した年度内」に行うことになります。
仮想通貨は総合課税の対象であるため、自身の本業を持つ場合はその収入と合算して税率が決まります(5〜45%)。
仮想通貨は「取得価額の計算方法」「課税のタイミング」などが複雑なため、ガチホである程度の利益が見えてきた段階で「ツールを導入する」「税理士に相談する」など、早めに対策を打っておくとよいでしょう。
仮想通貨の税金に関してはこちらでも詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
仮想通貨(暗号資産)にかかる税金と確定申告の流れを税理士がわかりやすく解説!所得の分類や計算方法について【2024年最新】
多額の税金がかかりそうな場合は、経費計上や損切りを行う
仮想通貨は税率が高く、最高税率は55%にも達します。
ガチホにより多額な利益が出た場合は税金の負担も大きくなってしまうため、できるだけ損失の確定や経費を計上して所得を減らすとよいでしょう。
方法としては次のようなものがあります。
- 利益となる見込みのないポジションをわざと損切りをする
- 書籍代やネット回線代などの経費を計上する
とくに損切りをすると損失分だけ所得を減らすことができるため、ガチホではなく塩漬け化してしまったポジションで相殺するのもおすすめです。
まとめ
「ガチホ」は意図された戦略ですが、塩漬けと紙一重でもあります。
仮想通貨を購入する前にバッドシナリオも考慮することで、塩漬けを避けながらガチホ戦略をより有用なものにできます。
また、長期での投資戦略になるため、利確後に確定申告しなければいけなくなった状況で、購入当時の取引情報を遡れなかったり、正しく損益を計算できなかったりする可能性も考えられるので、価格に一喜一憂する必要はなくても状況は常に注意を払っておくことをおすすめします。
また、うまく利益が出たときに確定申告で慌てないよう、取引情報や経費につながる書類はしっかり保存しておきましょう。