「イーサリアムに興味はあるものの、仕組みがいまいちわからない…」「保有しているけれど実はどんな特徴のある通貨なのか知らない」という方も多いのではないでしょうか。
2015年に登場したイーサリアムは、プラットフォームとしての「Ethereum」と通貨としての「ETH」でそれぞれ異なる側面を持っています。
ビットコインと同じく代表的な仮想通貨のひとつとして知られていますが、独自の仕組みをもっており、ビットコインとは特徴が異なります。
この記事では、イーサリアムの歴史や仕組み、活用先や抱える課題についてわかりやすく解説します。
アルトコインの代表格「イーサリアム」とは
ビットコイン以外の仮想通貨はまとめて「アルトコイン」と呼ばれています。
アルトコインには、イーサリアム(ETH)をはじめ、リップル(XRP)やソラナ(SOL)など、さまざまな種類があります。
イーサリアムは、そのアルトコインの中でもっとも取引量が多く、代表的な仮想通貨のひとつです。
イーサリアムの最大の特徴は、スマートコントラクトと呼ばれるプログラム機能を導入し、さまざまなサービスを提供できる点にあります。
仮想通貨の代表的な存在であるビットコインとは、目的が異なります。
- ビットコイン
-
デジタル通貨として決済や送金に使われることを主な目的としている
- イーサリアム
-
デジタル通貨としての役割に加えて、ブロックチェーン上でさまざまなアプリを動かす「プラットフォーム」として機能することを主な目的としている
イーサリアムの概要
項目 | 概要 |
---|---|
名称 | イーサリアム(ETH) |
現在の価格 | ¥328,272.18(2025年6月23日時点) |
発行上限枚数 | 無制限。ただし発行量は調整される仕組み |
現在の時価総額 | ¥39,626,929,996,741(2025年6月23日時点) |
コンセンサスアルゴリズム | プルーフ・オブ・ステーク(PoS) |
現在の主な用途 | 分散型アプリケーション、金融サービスなど |
イーサリアムは価格の上下はあるものの、長期的に見ると上昇傾向にあり、現在もビットコインに次ぐ時価総額を維持しています。2025年6月23日現在のイーサリアムの価格は、1枚あたり約32万円です。
知っておきたい「イーサリアムの歴史」
イーサリアムは、2015年に誕生し、2025年現在でおよそ10年が経過しています。
ここでは、ビットコインに次ぐ規模を誇るイーサリアムのこれまでの歩みを紹介します。
2015年:イーサリアムの運用が始まる
上述したように、イーサリアムには次の2つの役割があります。
- アプリを動かすためのプラットフォームとしての役割
- そのプラットフォーム内で使われる通貨「ETH(イーサ)」の役割
2015年に初めてプラットフォームが正式に公開され、同時に通貨「ETH」も流通し始めました。
運用が始まったプラットフォームの最初期バージョンは「フロンティア(Frontier)」と呼ばれています。
例えるなら、「イーサリアム=商品のブランド」「フロンティア=バージョンごとの規格名」「通貨ETH=アプリ内の課金に使うお金」とイメージするとわかりやすいかもしれません。
フロンティアには、プログラムを自動で実行する「スマートコントラクト」という仕組みが導入されましたが、この段階では主に開発者向けであり、一般の利用は限定的でした。
2016年:初めてのアップデートとTHE DAO事件
2016年には、イーサリアムで初めての大型アップデートが行われ、ネットワークの安定性とセキュリティが大幅に改善されました。このアップデートは「ホームステッド(Homestead)と呼ばれています。
ホームステッドへの移行が完了すると、さまざまなプロジェクトが参入し始め、さらに注目を集めました。
しかし同年6月、資金調達プロジェクト「THE DAO」で約360万ETH(当時の価格で約52億円)が盗まれるという、大規模なハッキング事件が発生します。
この教訓を活かし、翌年には「メトロポリス(Metropolis)」アップデートが実施され、機能の追加やセキュリティ強化が図られました。
2017年:NFTブームが到来
NFT(非代替性トークン) は、「唯一無二のデータ」を意味します。
これまでデジタルデータは、本物とコピーの区別がつきませんでしたが、NFTによって画像・動画・音楽・ゲームのアイテムなどのデジタルデータに、「これは世界に一つだけ」という証明をつけられるようになりました。
以降、ゲームや音楽、アートといった分野で希少価値や唯一性をもたせることができ、NFTブームが到来しました。
実はこのNFTの多くは、イーサリアムの技術である「スマートコントラクト」を使って作られています。
そのため、イーサリアムの需要が高まり、価格も大きく上昇しました。
2021年:NFTブームが再来
2017年のNFTブームのあと、資金調達の規制が強化されたり、過熱感が薄れてきたりしたこともあり、NFT市場は一旦落ち着きました。
しかし、2021年になるとデジタルアートの高額落札やメタバースの拡大、ゲーム内NFTの普及などにより、再びNFTブームが到来します。
NFTブームの再来に伴い、基盤として使われるイーサリアムの需要も再び高まりました。
加えて、仮想通貨業界全体のバブル期でもあったため、イーサリアムの価格は過去最高値となる1枚あたり約54万円台を記録し、2017年のブーム時を大きく超える価格水準となりました。
2022年:NFTバブル崩壊
一時は初期のブームを超えるほどの盛り上がりを見せたNFT市場ですが、再来したブームも長くは続きませんでした。
翌年の2022年には、NFT市場の過熱感が一気に冷え込み、取引量はピーク時の半分以下に減少しました。
また、NFTの価格も大きく値下がりし、人気を集めたNFTゲームなども軒並み暴落しています。
たとえば、NFTコレクション「Bored Ape Yacht Club(BAYC)」やNFTゲーム「Axie Infinity」なども、2021年に数百万円で取引されていたものが、2022年には数十万円以下にまで落ち込むケースが相次ぎました。
こうした急速な冷え込みに加え、同時期に仮想通貨取引所FTXが破綻します。
その結果、NFT市場を含む仮想通貨全体の信用不安が広がり、バブル崩壊といわれる状況となりました。
イーサリアムの仕組みや特徴
イーサリアムは、条件を満たすと自動で取引や契約を実行できる「スマートコントラクト」や、取引データを正しく管理するための「コンセンサスアルゴリズム」の仕組みが用いられているのが大きな特徴です。
ここからは、イーサリアムの仕組みや特徴を紹介します。
イーサリアムの取引に欠かせない「スマートコントラクト」
スマートコントラクトとは、あらかじめ設定した条件を満たすと、自動で取引を実行してくれる仕組みのことです。
たとえば、通常のネットショッピングでは、買い手と売り手の間に銀行や金融機関、決済サービスなどの仲介者が入り、支払いと商品の受け渡しを管理しています。
しかし、スマートコントラクトでは仲介者がいません。
「Aさんが商品を受け取ったら、Bさんにお金を支払う」といった取引を、仲介者を介さずにブロックチェーン上で自動化して実行します。
これが、イーサリアムの最大の特徴であるスマートコントラクトです。
取引が自動化されることで、手数料の削減や取引スピードの向上が期待できるため、金融サービスやNFTなど、さまざまな分野で活用されています。
独自のトークン規格「ERC」を採用
イーサリアムでは、公式通貨であるETHのほかに、イーサリアム上で新しいコインを作ることもできます。
そのときに活用されるのが「ERC」です。
これは、新しいコインを作るためのルールやマニュアルのようなもので、ERCに基づいて作られたコインは「ERCトークン」と呼ばれます。
代表的な規格には「ERC-20」と「ERC-721」があり、「ERC-20」は主に仮想通貨の規格、「ERC-721」はNFTの規格として用いられています。
たとえば「ERC-20」の規格に沿って作れば、誰でも同じ仕様のトークンを発行でき、さまざまなウォレットや取引所で取引可能です。
ERCという共通ルールがあることで、誰が作ったトークンでも同じように取引ができ、安心して使えるようになっています。
イーサリアムのコンセンサスアルゴリズムの変化
コンセンサスアルゴリズムとは、ブロックチェーン上で取引データが正しいことを参加者みんなで確認し、合意する仕組みのことです。
ブロックチェーンとは、取引データを「ブロック」と呼ばれる箱にまとめ、鎖のようにつなげて記録・保存する仕組みをいいます。
仮想通貨取引は銀行預金と異なり、国や金融機関などの中央管理者がいません。
そのため、改ざんや間違った取引データが記録されないよう、取引情報はネットワーク上で誰でも確認できるようになっています。しかし、共有しただけではデータが正しいかどうかはわかりません。
そこで、ブロックごとに「正しい」とされる条件を設け、共有された取引情報が正しいかどうかを世界中の参加者で確認し、「確かに正しい」と認められたものだけが新しいブロックとして追加されます。
この仕組みがコンセンサスアルゴリズムです。
コンセンサスアルゴリズムはいくつか種類があり、仮想通貨によって異なります。
- プルーフ・オブ・ワーク(PoW)
-
ビットコインをはじめ、多くのアルトコインに使われているアルゴリズム。
マイナーと呼ばれる人やコンピューターが大量の計算をして取引の正しさを証明する仕組み。 - プルーフ・オブ・ステーク(PoS)
-
イーサリアムで現在使用されているアルゴリズム。
大量の計算をする代わりに、ユーザーが自分のETHを預けて、ネットワークの運営や取引の承認に参加する仕組み。
イーサリアムでは、もともとPoWを採用していましたが、電力消費が大きいという課題がありました。
そこで、2022年にPoSという新しい仕組みに移行しました。
このときにPoSへ変更したことで電力消費が大幅に削減され、誰でもステーキングに参加して報酬を得ることが可能になりました。
イーサリアムの「ステーキング」とは
ステーキングとは、自分のETHを一定期間預けることでネットワークの運営に参加し、ブロックの承認者に選ばれると報酬が得られる仕組みです。
一連の流れは以下のようになっています。
- ネットワークの運営に参加するために、自分のETHを預ける
- 同じように自分のETHを預けている人の中から、取引の承認作業(バリデーター)を行う人がランダムで1人、または複数人選ばれる
- 選ばれた人が「ブロックが正しい」と承認すると報酬としてETHが支払われる
なお、ビットコインでは、計算問題を解いてブロックを作成する「マイナー」に報酬が支払われる「マイニング報酬」という仕組みが使われています。
マイニング報酬はPoW、ステーキング報酬はPoSの仕組みのもと行われるものなので、似て非なる報酬だといえます。
イーサリアムの活用先
イーサリアムは、さまざまな技術やサービスの基盤として活用されています。
ここでは、代表的な活用先を4つ紹介します。
分散型アプリケーション(DApps)の構築
DApps(ダップス)とは、「Decentralized Applications(分散型アプリケーション)」の略で、特定の企業や管理者に依存せず、ブロックチェーン上で動作するアプリのことです。
従来のアプリケーションでは、ユーザーのデータはすべて中央のサーバーに集められ、企業や管理者が管理していたため、サーバーがハッキングされたり、管理者によってサービスが停止されたりするリスクがありました。
イーサリアム上では、スマートコントラクトを利用してDAppsを構築できるため、ユーザーのデータが中央のサーバーに集まることなく、分散して管理されます。
分散される分、セキュリティ性や耐障害性が高まり、安全に利用できるのが大きな特徴です。
DAppsは、NFTゲームや分散型取引所(DEX)など、さまざまな分野で活用されています。
NFT発行のプラットフォーム開発
イーサリアムは、NFT(非代替性トークン)の開発や売買の基盤としても広く活用されています。
NFTは、「世界にひとつしかない」とデジタル上で証明できる仕組みです。
上述のとおり、画像や音楽などのコンテンツがコピーされにくくなるため、アートや音楽、ゲームアイテムなどの分野でも「本物」や「独自のもの」として価値を持たせることが可能になりました。
実際、多くのNFTはイーサリアムの「ERC-721」などのスマートコントラクト規格を使って発行されており、NFT市場の中心的なプラットフォームとなっています。
分散型金融(DeFi)サービスの構築
DeFiとは、銀行などの仲介者を通さずに、誰でも金融サービスを利用できる仕組みのことです。
日本では「分散型金融」とも呼ばれています。
DeFiでは、仮想通貨の貸し借りや交換、資産運用などが、スマートコントラクトによって自動で処理されるため、中央の管理者を通さずに利用できます。
たとえば、従来の銀行では、融資を受けるには審査や手続きが必要でしたが、DeFiでは、スマートコントラクト上で条件を満たせば自動で貸し借りが可能です。
こうした仕組みは「レンディングサービス」や「DEX(分散型取引所)」などで活用されています。
インターネットさえあれば世界中の誰もが金融サービスにアクセスできるDeFiは、今後も利用拡大が期待されています。
トークン発行による新たな資金調達方法の提供
イーサリアムでは、ERCというトークン規格を使って、誰でも独自トークン(ERCトークン)を発行できます。
さらには、ERCの仕組みを利用して独自トークンを使った資金調達が可能になりました。
こうした資金調達方法は、スタートアップ企業や新しいプロジェクトが世界中の投資家から資金を集める手段として注目されており、「トークンセール」と呼ばれています。
発行されたERCトークンは、仮想通貨取引所で売買されたりDeFiなどに使われたりと、用途はさまざまです。
たとえば、ステーブルコインとして知られる DAIやUSDCなどは「ERC-20」という規格で発行されており、現在では多くのプロジェクトがこの規格を採用しています。
イーサリアムならではの課題
イーサリアムは、スマートコントラクトやDAppsなどの活用が期待される一方で、いくつかの特有の課題も抱えています。
ここでは3つの課題について解説します。
スケーラビリティと電力消費量
スケーラビリティとは、「取引やユーザーの数が増えても、スムーズに動けるか」という処理能力の大きさ・拡張性のことです。
イーサリアムでは、処理できる取引の数に限りがあるため、多くの利用者が集中すると処理が追いつかず、取引速度が低下したり、手数料が高騰したりする「スケーラビリティ問題」があります。
また、スケーラビリティ問題に関連しては、電力消費量の多さも問題視されてきました。
とくに、イーサリアムがPoWを採用していたときは、マイニングの計算作業に多くの電力を消費していたため、環境負荷が高いとされていました。
こうした問題に対応するため、イーサリアムは2022年にPoSへ移行し、電力消費の大幅な削減に成功しています。
とはいえ、電力消費量に関する課題が解決したとはいえないため、処理能力を高めるための技術開発は継続して進められており、今後の改善が期待されています。
スマートコントラクト特有の課題
スマートコントラクトは、一度設定されたら自動で動作するという強みがある反面、書き間違いや設計ミスがあると修正が困難であるというリスクがあります。
また、悪意のあるコードが組み込まれていた場合でも、そのまま実行されてしまう可能性があります。
たとえば、過去に起きた「THE DAO事件」では、多額の仮想通貨が不正に引き出されましたが、これはスマートコントラクトの脆弱性を突かれたことが原因でした。
だからこそ、高いセキュリティ対策やコードの正確性が求められており、現在も安全性を高めるための開発や監査体制の強化といった取り組みが進められています。
ガス(Gas)代の増加
イーサリアム上でスマートコントラクトを実行したり、トークンを送信したりする際には、「ガス代」と呼ばれる手数料が発生します。
ガス代は取引ごとに必要であり、ネットワークの混雑状況や取引の複雑さによって上下するため、取引が頻繁なタイミングなどでは高額になることもあり、利用者の負担になりやすいのが現状です。
ただし、2021年に実施された「EIP-1559」というアップグレードでは、ガス代の仕組みに変更が加えられ、ガス代を予測しやすくする仕組みが導入されました。
更なる改善に向けた取り組みも進められています。
イーサリアムに関する「よくある質問」
ここでは、イーサリアムに関する「よくある質問」を紹介します。
イーサリアムとビットコインの違いは?
イーサリアムは取引だけでなく、スマートコントラクトを活用したアプリ開発など、幅広い用途に使えるプラットフォームとして開発されました。
一方のビットコインは、価値の保存や決済手段など、主にデジタル通貨としての利用を目的に作られた通貨です。
このように「開発プラットフォームとその利用に関係する通貨のイーサリアム」と、「保存や決済など流通を目的としたビットコイン」というように、目的と用途が異なっています。
イーサリアムが「オワコン」?そう言われる理由は?
イーサリアムはガス代(手数料)が高騰した時期があり、その不便さから「使いにくい」と批判されることもありました。
ただ、現在はPoS移行やスケーラビリティ向上の開発が進んでおり、将来性は十分にあると考えられています。
また、イーサリアムETFの取引開始もあり、投資対象としての評価も上がってきています。
イーサリアムを多く保有しているのは誰?
イーサリアムの保有者について正確に把握することは難しいですが、公開されている情報から判断すると、米国のCoinbase社やBit Digital社が多く保有しているといえます。
まとめ
イーサリアムは単なる仮想通貨ではなく、スマートコントラクトを活用して多様なサービスを構築できる「分散型プラットフォーム」として注目を集めています。
ビットコインが「価値の保存」を目的とするのに対し、イーサリアムは「機能の活用」に重きを置いており、NFTやDeFi、DAppsなど、さまざまな分野で活用が進んでいます。
スケーラビリティやガス代(手数料)の高さ、スマートコントラクト特有の課題などもありますが、PoSへの移行や技術開発の進展により、今後も成長が期待される存在です。